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2016 Jun. 2

ファベルジェの卵

「復活祭」は、十字架にかけられて死んだイエス・キリストが3日目に復活したことを記念・記憶する、キリスト教において最も重要な祭のことである。

復活祭

「復活祭」は移動祝日であり、もともと太陰暦にしたがって決められた日であったため、年によって太陽暦での日付が変わる。グレゴリオ暦を用いる西方教会では「復活祭」は3月22日から4月25日の間のいずれかの日曜日、東方教会ではグレゴリオ暦の4月4日から5月8日の間のいずれかの日曜日に祝われる。ちなみに、西方教会においては英語から「イースター」とも呼ばれている。

イースター・エッグとは、「復活祭」に出される特別に彩色や装飾を施されたゆで卵のことで、卵が使われる意義については、見た目には動かない卵から新しい生命が生まれ出ることから、死と復活を象徴しているとされている。

Easter egg

また、赤く染められる事が多いが、その赤い色は十字架上で流されたキリストの血の色と、血は生命を表すことから復活の喜びを表すとされる(諸説あり)。ただし、国や地方によっては装飾が様々であり、現代ではチョコレートで作られた卵や、ジェリービーンズなどのキャンディを詰めたプラスチックの卵で代用するようになってきている。

Easter egg
Easter egg
Easter egg
Easter egg
Easter egg

そして、「インペリアル・イースター・エッグ」という、ファベルジェ家により作られた宝石の装飾が施されたイースター・エッグのうち、ロマノフ朝のロシア皇帝アレクサンドル3世、ニコライ2世が、皇后や母后であるマリアとアレクサンドラのために作られた大きなエッグが存在する。いわゆる、「ファベルジェの卵」と呼ばれるものである。

ピーター・カール・ファベルジェとは19世紀末から20世紀初頭にかけてロシア王室ご用達となった宝石商・金細工師。ロマノフ家からの注文でそれぞれの皇后と母后のために製作された「インペリアル・イースター・エッグ」の作品群は、その独創性に溢れる美しさと、精緻を凝らした仕掛けで歴史上屈指の工芸美術品として名高いものである。

Peter Carl Faberge

1885年から1917年の間に58個作られたとされているが、総数には異説もあるようだが、現在、その所在が確認されているのは44個であり、約4分の1の14個が行方不明。ちなみに、もしオークションに出品すると数10億円以上の値が付くものもあるという。

1906年制作の「Moscow Kremlin/モスクワ・クレムリン宮殿」は、「ファベルジェの卵」シリーズ作品の中でも、ずば抜けてサイズの大きい作品である。

Moscow Kremlin

この作品は、モスクワの生神女就寝大聖堂(ウスペンスキー大聖堂)のアーキテクチャに触発されて制作されたという。乳白色のホウロウで制作された大聖堂のドームは取り外し可能となっており、精工な細工を施した協会の内部を見る事が出来る仕組みとなっており、塔はロシア帝国の紋章とモスクワの紋章が盛り込まれている。

Moscow Kremlin

この卵にはゴールドのオルゴールが仕込まれており、金の鍵を使って、時計仕掛けのオルゴールを作動させ、伝統的なイースターの賛美歌を演奏させる事が出来るサプライズ仕様。なお、この作品の現在の所有者は、モスクワの「クレムリン博物館」。

また、ブラッドストーンとも呼ばれるヘリオトロープ碧玉の個体片をベースに彫刻が施されたエッグに、ゴールドを重ねあわせたロココ調の渦巻き模様、綺羅びやかなダイヤモンド、ゴールドの花びらなどをルイ15世スタイルで装飾された1891年制作の「Memory of Azov/巡洋艦アゾフ号」は、ドロップ形状のルビーと2つのダイヤモンド、幅広いゴールドのバゼルにより留め金が作られている。

Memory of Azov

そして、緑色のベルベットで内張りされたエッグの中には、ニコライ2世が世界一周航海をした時の巡洋艦「Azova」号の精工・精密なミニチュア模型が現れるサプライズ。 ゴールドとプラチナのピースに、ダイヤモンドによるミニチュア模型。水面はアクアマリン。また、模型は卵から分離可能で、ゴールドによるフレームのプレートが下面に付けられている。この作品の所有者もモスクワの「クレムリン博物館」。

Memory of Azov
Memory of Azov

そして、1900年にシベリア横断鉄道の開通を記念して制作された「Trans-Siberian Railway/シベリア横断鉄道 」。卵の外側はオニキス、銀、金、及び石英、着色・装飾されたホウロウ等を素材に制作され、白オニキスの台座に、卵が金でメッキされた銀製の3匹のグリフィンにより支えられたデザインとなっている。

Trans-Siberian Railway
Trans-Siberian Railway
Trans-Siberian Railway

精密に作られた蒸気機関車と5両の客車は、それぞれ蝶番で繋がれた車両が折りたたみナイフのように折り曲げることが可能で、卵の中にすっぽりと入る。金とプラチナ、ダイヤモンド、ルビー等の宝飾品で制作されており、長さは1フィートに及んでいる。

Trans-Siberian Railway

5つの客車は水晶の窓が施され、それぞれ、「郵便」「女性のみ」「喫煙」「禁煙」「チャペル」のラベルが振られている。これまた、「クレムリン博物館」所蔵である。

ロシアの財団「Viktor Vekselberg/ヴィクトール・ヴェクセリヴェルグ 」が所蔵する、1898年制作の「Lilies of the Valley/スズラン」は、当時流行していた「アールヌーヴォー」スタイルを取り入れたエッグ。

Lilies of the Valley

薔薇色の七宝の卵を、ダイアモンドで飾られた金の細工で縁取り、周囲を七宝の葉と真珠のスズランの花で覆っており、アレクサンドラ皇后の好きな花であったスズランに彼女の好きな宝石だった真珠をふんだんに取り入れた装飾となっている。

Lilies of the Valley

そして、スズランの花を1つ回すと炉中からニコライ2世と2人の皇女、オルガとタチアナの肖像が現れる仕掛けとなっている。素材は、エナメル、ゴールド、ダイヤモンド、ルビー、真珠などが使用されている。

Lilies of the Valley

同じく「Viktor Vekselberg/ヴィクトール・ヴェクセリヴェルグ 」が所蔵する、1900年制作の「Cockerel/鳩時」は、ロマノフ家の4個のエッグとそれ以外の注文で製作した合計6個ある自動人形型の最初のものである。

Cockerel

ファベルジェは19世紀初頭に現れたスイス製の自動人形の複雑な仕組みを参考に、ミニチュアのエッグに組み込む自動機械を独自に制作した。「鳩時計」は、ロココ風に唐草模様のデザインを組み合わせた金と青い七宝の卵の中心に、金とダイアモンドと真珠の時計がついている。

そして、上のボタンを押すと鳩ではなくて、本物の羽毛で飾られた金の雄鶏が現れ、羽ばたきながら唄を歌う仕掛けとなっている。

Cockerel

アメリカの「ヴァージニア美術館」が所蔵する「Revolving Miniatures/回転するミニチュア」は、水晶で作られたエッグの中にロシア宮殿の絵が描かれたスクリーンが収納されている。

Revolving Miniatures

エッグの上部には26カラットのウラル産エメラルド・カボションの取手があり、時計の竜頭のようにロックを外して回すと、中のスクリーンが回転する細工が施されている。なお、水晶のエッグはダイアモンドの輪で飾られている。

Revolving Miniatures

「Matilda Geddings Gray Foundation 」が所有している「Danish Palaces Egg/デンマークの宮殿」は、アレクサンドル3世より皇后マリアへ贈られたエッグで、内部に皇后マリアが結婚前に住んでいたデンマークの宮殿の様子が描かれた10枚の折り重なるスクリーンが内蔵されており、屏風のように連なった仕上がりになっている。

Danish Palaces Egg

ちなみに、10枚のパネルのうちの8枚はデンマーク宮殿および住宅で、1枚目と最後のスクリーンはヨットが描かれている。

Danish Palaces Egg

最後は、ロンドンのアンティーク宝飾品取引会社ウォルツスキーにより、2014年4月に112年ぶりにロンドンで公開された、長く行方不明となっていた「Third Imperial Egg/第3のインペリアル・エッグ 」。

Third Imperial Egg

数年前にアメリカの屑鉄業者が骨董市で発見。転売しようと約140万円で手に入れ、その後、インターネットで行方不明のエッグの価値を知ったというシロモノ。

Third Imperial Egg

この業者は、このエッグに約3300万ドル(約34億円)の価値があることをまったく知らずに、約1万4000ドルで買い取り、これを屑鉄として売ることで500ドルほどの儲けを得ようとしていたが、幸いにも買い手が見つからず、エッグは溶解されずに済んだという、ある意味ラッキーな運命を持ったエッグである。しかし、骨董市でこのエッグを売っていた人物も価値を知らなかったというのは少々間が抜けているとしか言えない。

まさに掘り出し物として、再び陽の目を見る事になったエッグである。

この「Third Imperial Egg」は、ロシア皇帝アレクサンドル3世が1887年に皇后マリア・フョードロブナに贈ったもので、宝石で飾られた金の台座に置かれ、スイスの老舗高級時計メーカー「ヴァシュロン・コンスタンタン」の時計が仕込まれている。

Third Imperial Egg
Third Imperial Egg
Third Imperial Egg

余談ながら、007シリーズ第13作目の1983年公開「007 オクトパシー」で、「レディーの卵」という「ファベルジュの卵」が重要な小道具として登場したことは、何となく記憶に残っている。

007 オクトパシー

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