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2016 Apr. 27

ポンペイの壁画展

ローマ人の余暇地として繁栄したポンペイの最盛期の人口は約2万人といわれている。紀元後62年2月5日にポンペイを襲った激しい地震によりポンペイや他のカンパニア諸都市は大きな被害を受けた。

町はすぐに以前より立派に再建されたが、その再建作業も完全には終わらない79年8月24日の午後1時頃にヴェスヴィオ火山が大噴火し、一昼夜に渡って火山灰が降り続けた。

カール・ブリューロフ作「ポンペイ最後の日」
カール・ブリューロフ作「ポンペイ最後の日」

ジョン・マーティン作「ポンペイとエルコラーノの壊滅」
ジョン・マーティン作「ポンペイとエルコラーノの壊滅」

火山の噴火という悲劇的な終焉により、時代を瞬時に閉じ込めたポンペイの町。18世紀に再発見されたポンペイの遺跡は、古代ローマの人々の豊かな暮らしを今に伝え、世界中を魅了し続けている。

1997年に「ポンペイ、エルコラーノ、トッレ・アヌンツィアータの遺跡地域」として世界遺産に登録され、年間200万人以上の観光客が訪れるポンペイの遺跡。

ポンペイ遺跡から臨むヴェスヴィオ山
ポンペイ遺跡から臨むヴェスヴィオ山

「秘儀荘」を筆頭とする壁画の美しさで知られ、当時の宗教儀式の様子を描いた壁画の特徴的で鮮烈な色合いは「ポンペイの赤」と呼ばれ、一度目にすると忘れられない鮮やかなものである。

ポンペイの赤

ポンペイの壁画が豊かな色彩を失わなかった秘密は、この町を襲った悲劇にあった。ヴェスヴィオ火山の噴火により押し寄せた火砕流や有毒ガスが、ポンペイの人々の命を次々と奪い、一瞬にして5メートルの深さに町全体を飲み込んだ火砕流が、当時の人々の生活をそのままの状態で保存した。

「秘儀荘」と呼ばれる邸宅に残された壁画
「秘儀荘」と呼ばれる邸宅に残された壁画

大塚国際美術館「環境展示」
大塚国際美術館「環境展示」

ポンペイが人々の前にその姿を再び現した18世紀半ばから、発掘は今に至るまで続けられている。地中から次々と現れるローマ時代の遺品の美しさに世界が驚愕したが、その美しさの秘密は実は火砕流堆積物にある。火山灰を主体とする火砕流堆積物には乾燥剤として用いられるシリカゲルに似た成分が含まれ、湿気を吸収。この火山灰が町全体を隙間なく埋め尽くしたため、壁画や美術品の劣化が最小限に食い止められた。そして、ポンペイの悲劇が皮肉にも古代ローマ帝国の栄華を今に伝えることになった。

昨日お伝えした日伊国交樹立150周年記念として開催されている「メディチ家の至宝 ルネサンスのジュエリーと名画展」に引き続き、本日も4月29日から7月3日まで「森アーツセンターギャラリー」で開催される日伊国交樹立150周年記念イベントの1つである「世界遺産 ポンペイの壁画展」についてお届けする。

世界遺産 ポンペイの壁画展
日伊国交樹立150周年

この展覧会は、ポンペイの出土品の中でも最も人気の高い壁画に焦点を絞り、壁画の役割と、その絵画的な価値を紹介。壁画コレクションの双璧である「ナポリ国立考古学博物館」とポンペイ監督局の貴重な作品約80点を厳選し、「第1章 建築と風景」、「第2章 日常の生活」、「第3章 神話」、「第4章 神々と信仰」と描かれたテーマごとに紹介し、古代ローマの人々が好んだモチーフや構図、その制作技法に迫る。

あらゆる建造物を美しい絵画で飾り、人生を謳歌した人々の美意識を、当時の室内を飾った姿そのままに、一連の空間装飾として一部再現展示。

エルコラーノ遺跡の内部
エルコラーノ遺跡の内部

ポンペイ近郊の町エルコラーノで18世紀に発見された皇帝崇拝の場である「アウグステウム(通称バシリカ)」から出土した「赤ん坊のテレフォスを発見するヘラクレス」はギリシャ神話を題材にした壁画で、その絵画的な完成度と二千年近い時を超えて甦った奇跡的な美しさで「神のごときラファエッロ」の作品になぞらえて称賛されている。

赤ん坊のテレフォスを発見するヘラクレス
赤ん坊のテレフォスを発見するヘラクレス

過去一度を除いては、イタリア国外に持ち出されたことのない、まさに門外不出の貴重な作品で、アウグステウムから発見された壁画は、皇帝ゆかりの特別な場所を飾るものとして、当時の文化・教養・技術の粋を集めて描かれた第一級の壁画。

今回は本作と「テセウスのミノタウロス退治」「ケイロンによるアキレウスの教育」の3点が揃って展示される。

エルコラーノ遺跡を横切る大通りに面して「アウグステウム」があり、ここは大理石板で舗装された大きな広場で、四方に柱廊が配されていた。奥の壁には、中央に矩形の大きな奥まったスペース(エクセドラ)が1つ、両端に半円形のエクセドラが1つずつつながっている。半円形のエクセドラは、両脇の柱廊と同一軸線上に配置されており、それぞれを飾っていた壁画が1739年の発掘によって見つかっている。

そこには、向かって左側には「オリュンポスに笛を教えるマルシュアス」と「テセウスのミノタウロス退治」、右側には「ケイロンによるアキレウスの教育」と「赤ん坊のテレフォスを発見するヘラクレス」が飾られていた。また、中央のエクセドラにはローマ帝国の皇帝ティトゥス像と、クラウディウスとアウグストゥスの座像が置かれていたと推測されている。

テセウスのミノタウロス退治
テセウスのミノタウロス退治

この建物は、「皇帝祭司団(アウグスタレス)」の礼拝所との密接な関係や、皇帝を輩出したユリウス=クラウディウス家やフラウィウス家の人々の彫像が多数発見されたことから、皇帝崇拝の場とみなされており、一方で、若者たちの「教育の場(ギムナシウム)」という説もあり、牝鹿に乳を与えられるテレフォスは、栄養=教育の基礎を必要とする子どもたちを暗示していると解釈されている。「ケイロンによるアキレウスの教育」は、アキレウスに「キタラ(竪琴の一種)」の弾き方を教授するケイロンが描かれており、思春期の若者への教育を暗示するとともに、ギリシャ神話において最も高尚とされた音楽の学習がテーマとなっている。

ケイロンによるアキレウスの教育
ケイロンによるアキレウスの教育

また、ポンペイの南の方角に位置するグラニャーノ(古代のスタビアエ地域)のカルミアーノ地区で1963年の夏に偶然に発見された農園別荘(ウィラ・ルスティカ)の食堂(トリクリニウム)を飾っていた壁画も重要な発見であった。

スタビアエは、ヴェスヴィオ山の噴火によって火山灰と火山礫に覆い尽くされた地域で、大プリニウスもこの地で命を落とした。当時、スタビアエ地域には農園別荘が少なくとも45軒存在し、この遺跡からは葡萄酒とオリーヴ油の製造に用いられたとみられる圧搾機が発見されている。建物は約400平方メートルの小規模なもので、食堂のほか、居住用の部屋、中庭、台所、圧搾機室、葡萄酒貯蔵室などを有していた。

スタビアエ

古代ローマ時代、貴族たちにとって農業こそがまっとうな収入源であり、とりわけ元老院階級の人々は基本的には土地に関連する事業以外は禁じられていた。元老院階級の人々は豊かな土地を所有する農園経営者であり、通常は都市に居住して政治に参加し、たまに農園を訪れ、視察する。農園では奴隷身分の管理人が主人のためにすべてを管理し、小作人や奴隷が実際の農作業に従事していた。

発見された食堂は農園別荘に相応しく、植物の生育や葡萄酒づくりを司る「ディオニュソス」をモチーフとする一連の壁画によって装飾されている。南壁には「ディオニュソスの凱旋」、東壁には「ディオニュソスとケレス」、西壁には「ポセイドンとアミュモネ」が描かれ、酒の神が宴に華を添えている。

ディオニュソスの凱旋
ディオニュソスの凱旋

ディオニュソスとケレス
ディオニュソスとケレス

ポセイドンとアミュモネ
ポセイドンとアミュモネ

今回の展覧会では、「カルミアーノの農園別荘」と呼ばれる建物の一室を一部再現して展示。饗宴を彩った「ポンペイの赤」が印象的な16枚の壁画パネルの立体展示で甦らせ、2000年前の室内空間さながらに鑑賞することができるスタイルに注目が集まる。

カルミアーノの農園別荘(壁画を一連の空間装飾として再現した展示イメージ)
カルミアーノの農園別荘(壁画を一連の空間装飾として再現した展示イメージ)

「ディオニュソス」をモチーフとする一連の壁画
「ディオニュソス」をモチーフとする一連の壁画

そして、610グラムの並外れた重さをもつ、見事な黄金製の腕輪が出土した「黄金の腕輪の家」の庭から出土した断片を再構成した壁画も見どころの1つ。

「黄金の腕輪の家」は眺めのよい大邸宅で、町の西側の斜面に海に面して三つの階にわたって建てられていた。最上階は天窓がある大広間や寝室、食堂があり、下の階にも広間や食堂と個人用の浴室のある、まさにポンペイセレブの豪邸であった。

1983年に庭の発掘が行われた際、ひじょうに多くの細かな断片が出土。断片を再構成すると、洗練された壁面装飾が完成。断片として庭で発見されたのは、紀元後62年の地震で損傷を受けたため、壁画装飾がつるはしで壊して庭に捨てられたからとみられる。

詩人のタブロー画がある壁画断片
詩人のタブロー画がある壁画断片

中央に配されたタブロー画に、3人の人物が表。手にキヅタの冠をもつ男性はコンクールで優勝した詩人で、中央には一方の手に赤いマントと供え物の皿、もう一方の手に把手付の水差しを持つ従者の少年が立つ。

その脇には、女性がこちらに背を向けて、一心に蝋板を読んでいる。タブロー画の背景の描き方は、この場面が室内であることを暗示している。

詩人のタブロー画がある壁画断片
詩人のタブロー画がある壁画断片

「世界遺産 ポンペイの壁画展」は、輸送困難な壁画作品が約80点。その多くが美術史でもよく知られる良質のものであり、サイズも3メートル規模のものが少なくない。

赤い建築を描いた壁面装飾
赤い建築を描いた壁面装飾

日伊国交樹立150周年を記念して開かれるだけあって、これまでになかった規模の展覧会となっており、ポンペイ壁画のまさに決定版ともいえる今回の展覧会は決して見逃してはならない。

日伊国交樹立150周年

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