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2013.Aug. 19
竈門神社

竈門(かまど)神社がある宝満山は、太宰府天満宮などがある太宰府の町からみて、鬼門にあたる北東の方角に位置する。

大宰府政庁がこの地に設置された天智天皇3年(664年)に、鬼門封じの祭祀がその山の麓で執り行われたことに起源をもつ竈門神社は、太宰府鎮護の神様、方除けや吉方参り、厄除けの神社として信仰されている。また、天智天皇12年(673年)に、心蓮という僧が山中で修行中に、その目の前に「玉依姫(たまよりひめ)」が現れたとされることから、竈門神社はその守護により、朝廷によって「社殿(上宮)」が建てられ、縁結びや子授け、安産の祈願として信仰されるようになる。縁結びは男女の縁だけでなく、人と人との良縁を結ぶともされ、福岡地方を中心に広く信仰されている神社である。

竈門神社

今年、御鎮座1350年の年を迎える竈門神社は、記念の年を迎えるにあたり、社務所および参集殿の建て替えが計画され昨年竣工された。今回新しくなった社務所は、由緒ある竈門神社の長い歴史のなかに位置づけられ、100年愛される建物をコンセプトに計画された。

建築は、日本各地の神社建築を数多く手がけることでも知られる神社建築のエキスパート種村強氏が担当。その社務所の一角に設けられた「お札」及び「御守り授与所」のインテリアデザインを世界的なインテリアデザイナーであり、武蔵野美術大学教授も勤める「Wonderwall」の片山正通氏が手掛けた。

竈門神社の大きな鳥居をくぐり、木々に囲まれた石段を踏みしめて上ると、ガラス張りのモダンな社務所が見えてくる。今回特にこだわったという淡いピンク色の壁面が発する柔らかな雰囲気は、参拝者の気分が高揚する感覚を与える。

ガラス張りのモダンな社務所

新社務所の屋根は、伝統的な民家にみられる屋根の中程が盛り上がり滑らかな曲線を持った勾配の「起り(むくり)屋根」を採用し、新社務所と向かい合うように立つ拝殿の弓状に流れの中央部分が弛んでいる「反り屋根」と対比させている。屋根の素材には耐久性が高く、経年変化も見込まれる銅板が使用され、L字型のプランをもつ建築は、社務所とともに参集殿も兼ねており、大広間は結婚式の待合などにも使われる。

内部は、ところどころに彫刻などの装飾が施され、欄間には竈門神社の御神紋である桜の花の透かし模様が入れられたガラスがハメ込まれている。室内を構成する材には良質なクスノキを使用し、内装の一部には、工事の際敷地を掘り返したときにでた石を再利用している。照明は省エネ効果の高いLED。真新しい大広間の畳の下には床暖房が仕込まれており、現代的な快適さも兼ね備え、襖越しには、山側の美しい紅葉のある借景を楽しむことができる。鉄筋コンクリート造の建物にクスノキを材としたインテリアで、木造の雰囲気を演出し、鉄筋コンクリートの建築のなかに木造建築をつくったような建物となっている。

鉄筋コンクリートの建築のなかに木造建築をつくったような建物となっている

広場から直接入ることのできる祈願のための待合室と社務所内の事務室には、太宰府の町の方角にあるテラスに面した縦格子がハメ込まれた外壁越しに、柔らかな光が差し込む。参道の階段に面した社務所の地下1階部分は、宝物の収蔵庫となる。元来、神社は聖なる空間、神様を身近に感じることのできる場所であると同時に、伝統や時代の粋を集めた技術の最先端が集まる場所という側面も持っていた。竈門神社における建て替えプロジェクトも伝統に新しいものを加えた、現代的なデザインとエンジニアリングがマッチしたプロジェクトであるといえる。

授与所は、曲面を多く用いた「かまど」のようなデザイン。「かまど」を中心に人々が集うコミュニケーションの場所となることをイメージしている。

壁面や床の素材は、木ではなくあえて石を選んでおり、壁面には神社の象徴である桜の色を思わせるさまざまなピンク色の天然石を短冊状にカットしてハメ込んでいる。竈門神社は昔から縁結びの神様として有名で、参拝者も女性が多い。ここを訪れる参拝者の1人1人の異なる思いを、石の密度に思いを託する意味合いもあり、1つ1つの石の大きさはあえてランダムにして表現されている。

1つ1つの石の大きさはあえてランダムにして表現されている

天井を見上げると一面に広がる桜模様。竈門神社のご神紋である桜紋をデザイン要素として取り入れ、華やかさ、可愛らしさとともに、品格の感じられる空間に仕上がっている。壁面はツヤ消しの壁に「艶」がある桜のシンボルが浮かびあがるようにデザインされており、四季の季節の移り変わりをもった周辺の風景が映し出されるようになっている。また、床は外装部と同じ御影石が使用されている。

天井を見上げると一面に広がる桜模様

お守りの授与所としての機能も秀逸で、一般的な授与所とは一線を画すデザインだ。すべてのお守りが一望でき、見やすく手に取りやすい什器。お守りのパッケージサイズも規格化されている。天候を気にせず建物の中でゆっくりとお守りを選ぶことができるというのも、神社としては珍しい工夫と言える。巫女さんが綺麗にみえる環境までも意識したデザインは、数々のショップを手がけたインテリアデザイナー片山氏の真骨頂。

巫女さんが綺麗にみえる環境までも意識したデザイン
見やすく手に取りやすい什器
お守りのパッケージサイズも規格化

入り口のラウンドしたガラス戸は、庭や本殿にむかって開くような形をイメージしており、授与所がただお守りの受け渡しをする場所というだけでなく、神社全体を包み込むようなものにしたいというデザイナーの狙いが込められている。

そして、プロジェクトの一環として展望テラスに設置するベンチのデザインの依頼もあり、片山氏の紹介で参加したのが、彼の精神的な兄のような存在であるというイギリス人のジャスパー・モリソン氏。そして、授与所の床に使ったものと同じ御影石でつくられたラブベンチが1つ、1人用のチェアが3つ、太宰府の街を一望できるテラスに設置された。

片山氏の紹介で参加したのが、彼の精神的な兄のような存在であるというイギリス人のジャスパー・モリソン氏

石という硬い素材でありながら座り心地が柔らかで、何より回転するという意外性が面白い。椅子が回転することで、写真撮影時の背景が固定されることなく、お気に入りのアングルが確保できるし、愛する人と隣り合わせに座っていたとしても、座面の向きを自由に変えられることで、愛し合う2人の関係性、そして、人と人との関係性をよりリアリティに表現することが可能になる。

何と言っても、外に置かれている硬い石の椅子が誰も回転するなどと考えないだけに、けっこう新鮮な驚きと小さな喜びが生まれるところが良い。ちなみに、回転する構造は世界的な構造エンジニアリングや技術コンサルタントを行っている「アラップ社」の金田充弘氏が担当。

石という硬い素材でありながら座り心地が柔らかで、何より回転するという意外性が面白い

簡潔で変わらぬ価値を持ち続ける普遍的なデザインが特徴のジャスパー・モリソン氏は、現在最も影響力のあるプロダクトデザイナーの1人である。彼が1350年もの歴史をもつ神社に置かれる椅子をデザインしたということはけっこうな話題だが、彼がラブシートをテーマに椅子をデザインしたことはさらに大きな話題である。

そして、長い伝統を誇る竈門神社の歴史の中で、新たな空間を提案したこのプロジェクトはアートやデザインに先見性のある竈門神社宮司の理解があってこそ実現したものだ。ただ伝統を受け継ぐだけでなく、その時代にできる新たなチャレンジに挑む姿は、きっと多くの人々の共感を呼び、これからも愛され続ける神社となることは間違いない。


 
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