踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望

フジテレビ製作の連続テレビドラマ「踊る大捜査線」の劇場版第4作であり、15年に渡るシリーズ最終作。15年と一口にいっても、やはりその間の変化は思いのほか大きい。織田裕二演じる新米刑事の青島俊作の登場は歩きタバコで出勤。現在の嫌煙ブームからは考えられない登場シーンである。また、女子高生たちはことごとくルーズソックスを履いていた時代。今では懐かしい光景だ。

フジテレビ製作の連続テレビドラマ「踊る大捜査線」の劇場版第4作

「踊る大捜査線」は、銃撃戦や犯人逮捕までを追う従来の刑事ドラマとは異なり、警察機構を会社組織に置き換え、署内の権力争いや「本店(=警視庁)」と「支店(=所轄署)」の綱引きなどを、湾岸署を中心に描いた作品である。また、事件を追うだけでなく、警察の抱えるさまざまな内部矛盾、特に警察組織の厳格なキャリア制度の問題、官僚主義の問題、縦割り行政の問題、民事不介入の問題も大きなテーマとなっていた点がユニークであり、新鮮であった。

当初、舞台となった湾岸署の周囲は見事に空き地が広がり、警視庁の刑事たちからは「空き地署」とバカにされる始末。これというのも、前年に臨海副都心で開催が予定されていた世界都市博覧会が、時の東京都知事・青島幸男の公約により中止に追い込まれたせいで、開発が一時ストップしてしまったからだ。ドラマのなかで、青島刑事は何かと「都知事と同じ青島です」と自己紹介しており、ここには青島都知事への皮肉も込められているようだ。

テレビドラマはもちろん、映画版に至るまで、いかりや長介演じるベテラン刑事の和久平八郎の存在が極めて重要な役割を担っている。テレビドラマの放映期間は和久の定年までのタイムリミットと重なり、終盤では彼のやり残した仕事を青島はじめ後輩たちが右往左往しながら解決していく姿が描かれている。

いかりや長介演じるベテラン刑事の和久平八郎の存在が極めて重要な役割を担っている。

残念ながら2003年公開の「踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!」が彼の遺作となったが、MOVIE3では2004年に逝去したいかりや長介が演じた和久平八郎は病死した設定となっており、過去作でのいかりやの音声による和久平八郎のセリフが青島の行動の心の声として流れるシーンがある。そして、彼の甥っ子に当たる伊藤淳史演じる和久伸次郎が新たに登場している。

頑固一徹、現場一筋、人情老刑事の和久平八郎の決め台詞が、有名な「…なんてな」。ちょっとカッコ良過ぎる台詞を言ったあとで「…なんてな」と付け加えることで、たちまち「かっこつけ」臭が消えて、なんかホノボノとした雰囲気が漂い、そして、何となく説得感が増す。この「…なんてな」は、特別な言葉ではなく、和久イズムとして15年の間に「踊る」シリーズ全体に宿る空気感というか「…なんてな」感になっているかのようだ。

和久イズムとして15年の間に「踊る」シリーズ全体に宿る空気感というか「…なんてな」感になっているかのようだ。

今回の作品でも、この台詞はある人物によって見事に継承されており、いい味を醸し出す。ちなみに、MOVIE2での初日舞台挨拶は「踊る」関連でいかりや長介が公の場に姿を見せた最後の場所となったが、当時退院したばかりの彼がファンの前で挨拶した時もこの台詞で観客が湧き、そして涙ぐんだ。なお、いかりや没後に発売となったDVDでは、スタッフロールの最後に「ありがとう、和久平八郎 さよなら、いかりや長介 湾岸署一同」の一文が追加されている。

また、「踊る」に殉職はないという暗黙の了解も、この「…なんてな」感かも知れない。今までの「踊る」映画版の予告編は、いつも誰かが死んでしまう感を匂わせてきた。1998年の「踊る大捜査線 THE MOVIE」では青島が、2003年の「踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!」では恩田すみれが、2010年の「踊る大捜査線 THE MOVIE3 ヤツらを解放せよ!」では、またまた青島が…。これはもう狼少年状態。そして、今回の作品予告編も…。詳しくは言えないが、映像マジックっていうか、編集の力は怖い…ってな感じである。これはもう劇場で体験してもらうしかないが、その時に「なんてな」というセリフが聞こえてくるかのようだ。ただ、THE MOVIEやMOVIE2のエピソードが今回のTHE FINALに上手く絡んでおり、「なるほど、そうきたか…」ってな感じである。

「なるほど、そきたか…」ってな感じである。

「踊る」シリーズの人物設定も良く出来ている。そして、その役柄は顔の表情に顕著に表れており、具体的には口元を見ればよく分かる。青島の口は「への字」になっている場合が多い。青島は基本的に陽気で飄々としたイメージだが、よく見ると、意外に「への字口」状態が目立っている。もちろん織田裕二の骨格的な問題があるかも知れないが、織田は多分意識的に口角を下げている感じがする。これは世の中に腹をたてている証であり、自分のルールに忠実、規制のルールに従わないという反骨精神の表れであり、現場で歯を食いしばって頑張ってる人間の顔になっている。

スリーアミーゴズたちは基本的にヘラヘラ笑っており、基本彼らは体制に巻かれがちな人たちである。そして、上と下に挟まれて、何かと忍耐の室井慎次はいつも口を真一文字に結んでいる。また、上層部の人たちも口角をムスっと下げているが、青島と違いどこか威張ってる感じが漂う。登場人物の口元を見るのも、作品を楽しむ1つの方法かも知れない。

登場人物の口元を見るのも、作品を楽しむ1つの方法かも知れない。

国民的大人気シリーズの第4弾にして完結編であるこの作品は、完結するような内容かどうかは何となく疑問だが、ともあれファイナルである。下町の商店街で唐揚げ屋を営む青島とすみれ夫婦。「えっ、こうなっちゃうの…」という驚きのオープニングシーン。その瞬間から観客は「踊る」モードに突入する。そして、ファイナルというだけあって、過去15年をフラッシュバックさせる超カッコいいタイトルバックと自然と心が弾むお馴染みのテーマソング。これだけで、何となくジ〜ンとさせられる心憎い演出だ。涙腺の弱い「踊る」マニアは要注意だ。

今回のテーマは、捜査を無駄に混乱させ、人命をないがしろにする理不尽な規則の存在と警察内部に巣食う隠蔽体質。メインのストーリーと湾岸署の隠蔽問題の対比が見事なコントラストをなしている。湾岸署のメンバーは皆が1つのチームとして「踊る」の重要な「ゆるキャラ」のようなパートを喜々として演じている。ただ、残念なことに、テレビシリーズ第1話から出演している中西修湾岸署刑事課盗犯係長役の小林すすむが撮影終了後の5月16日に逝去し、この作品が彼の遺作となった。

テレビシリーズ第1話から出演している中西修湾岸署刑事課盗犯係長役の小林すすむが撮影終了後の5月16日に逝去し、彼の遺作となった。

また、真下雪乃役を演じる水野美紀は「踊る」には実に7年ぶりの復帰である。水野美紀はドラマシリーズ第1話からの全ての本編と「交渉人 真下正義」にも登場していたが、前作では柏木雪乃は産休中という設定であった。余談ながら、製作側の事情として、水野が所属事務所バーニングプロダクションから独立し、代わりにスピンオフドラマ「湾岸署婦警物語 初夏の交通安全スペシャル」に主演した内田有紀が同事務所所属に復帰したため、内田が水野に代わって出演を果たしたというオトナの事情があったようだ。

前作から「踊る」メンバーに加わった小栗旬、小泉孝太郎も存在感を示し、意外なところではSMAPの香取慎吾が重要な役を演じている。

前作から「踊る」メンバーに加わった小栗旬
泉孝太郎も存在感を示す。
スマスマでの一場面より…

ファイナルだからもう少し大きなスケールで…という思いもあるが、「踊る」の一貫した大きなテーマである、警察の抱えるさまざまなご都合主義や警察内部の矛盾にスポットを当てたこの作品こそ、ファイナルに相応しい作品なのかも知れない。当初から「踊る」では、警察組織における青島と室井の関係性を縦軸に置き、湾岸署での一連のドタバタを横軸に置いたストーリーを展開していた。

青島と室井の関係性を縦軸に置き
湾岸署での一連のドタバタを横軸に置いたストーリーを展開していた。

このシリアスとユーモア、「緩」と「急」が上手くミックスされた「踊る」の特性はファイナルでもいかんなく発揮されている。正義や組織があるべき姿ではなく、何だかおかしなことになっていると疑問を感じたり、それこそ腹をたてたりした時、それを理屈めいた言葉でこねくり回すのではなくて、行動で状況を引っくり返すというのが「踊る」の真骨頂であり醍醐味だ。

15年の集大成としてヒットすることは間違いない。フジテレビのプロモーションも凄いが、もしかすると、邦画の実写映画としての興行収入首位の記録を持つ「踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!」を追い抜くかもしれない。

「バナナだ」のセリフに「プッ」と吹き出し、「すみれさん、辞めないよね」の言葉にちょっと胸がジーンとする。「踊る」15年の最終章を劇場で目撃せよ…なんてな。

15年の集大成としてヒットすることは間違いない。

 
「踊る大捜査線 THE FINAL 」完成披露イベント映像【上映前】
 
 
「踊る大捜査線 THE FINAL 」完成披露イベント映像【上映後】
 
「踊る大捜査線 THE FINAL 」完成披露イベント
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