中国でビジネスを行なう場合には、必ず知っておくべき言葉があるという。それは「性価比」という言葉だ。商品やサービスの「性能、提供価値」が、その「価格」と比べてどうなのか、という意味で使われる。平たく言えば、コストパフォーマンスである。比較的価格が安い割には高品質でファッション性がある「ユニクロ」や「H&M」の商品とか、毎月1日の映画の日に1000円で映画を観ることなどが「性価比が高い」と言われている。
性価比が高い方が良いというのは万国共通だが、商品やサービスの購入を決める際に、特に中国人は「性価比」を気にする民族であると言われている。ある意味、中国人は大阪のおばちゃんやお値打ち品が大好きな名古屋人気質に近いと考えていいかも知れない。
1999年に中国大陸に進出して以来、中国の40以上の都市で500店舗以上を展開し、オシャレなカフェとして中国人の生活にも浸透しているスターバックス。グローバルスタンダードとして世界中のスターバックス店舗で統一された内装、商品メニュー、サービス等を中国でも提供すると同時に、中国人の消費者心理に合うように中国流にカスタマイズした「性価比」を上手くミックスし、成功を収めている。
ロイヤルカスタマーの来店頻度を上げるために導入している「MSR(My Starbucks Reward)」プログラムもその1つ。MSRの会員になると、スターバックスを利用するたびにポイントが加算され、1年間に貯めたポイントの数により、様々な特典が受けられる。なお、日本のスターバックスでは導入されていないため知らない方も多いかもしれないが、アメリカをはじめ、欧州、中国でも導入されているプログラムである。
MSRの会員になるとすぐに使える「ウェルカムレベル」、ポイントが5つ貯まるともらえる「グリーンレベル」特典、ポイントが30(地域によっては25)貯まると使える「ゴールドレベル」特典がある。中国のスターバックスは、MSRプログラムを中国人特有の消費行動に合わせて、実に上手く利用している。それは「先にカネを払わせることで、リピート利用を増やす」という作戦だ。
中国とアメリカのMSRプログラムの一番の違いは、MSRプログラムに参加するための「初期費用」の有無である。MSRプログラムへの入会費用を「無料」にしているアメリカに対して、中国では敢えて「有料(88元)」にしている。中国で参加費用を有料にしている理由は、初期費用を有料にして先にカネを払わせた方が、MSR入会会員のリピート回数が増えるからである。

中国人消費者は、常に「どうやったらお得な買い物ができるか」を考えて消費をする。無料でMSR会員になるよりも、お金を払ってMSR会員になった方が、「どうせ入会費用を払ったのだから、できるだけ多くスターバックスに来店してリワードクーポンを使って得をしよう」という考えが働き、来店頻度が高まるからだ。
また、中国では縁起のよい「8」という数字を並べた「88元」という入会費用にも理由がある。若い人でも手の届く範囲(100元以下)に抑えられており、88元を払ってもすぐに元が取れると中国人客に思ってもらえるように3枚の「Buy one Get oneクーポン(1つ買うと1つ無料でもらえるクーポン)」をMSRプログラム入会直後に提供している。ちなみに、入会費用の88元は、Tallサイズのモカ(28元)3杯分とほぼ同額。スターバックスは、このようなやり方で中国人客のロイヤリティーを高め、最近中国で増えている競合カフェに客が奪われるのを防いでいる。
もう1つ、中国版MSRメニューが中国人の心を掴んでいる点は、アメリカでは提供していない「Buy three Get oneクーポン(3杯購入すると4杯目が無料となる)」の存在だ。中国では友達とグループでカフェを利用することが多い。「Buy three Get oneクーポン」があれば、友達1人分のコーヒー代が無料になるため、他の競合カフェに行くより、スターバックスに行く方が得だと思わせることができ、来店確率が上がる。更に、MSR会員が「Buy three Get oneクーポン」を利用する際、一緒に来店した友人にMSRプログラムのクーポンについて説明するはずなので、それを聞いた友人もMSRプログラムに興味を持って入会する可能性も高まる。
逆に、アメリカで提供している「グリーンレベル」の「珈琲、紅茶のおかわり無料(回数制限なし)」クーポンは、中国では提供していない。もし、中国でこれを提供してしまうと、1人で10杯、20杯と無料のおかわりを頼む人がいたり、複数人のグループで来店し、注文するのは1杯だけで何杯もおかわりしながら回し飲みをする客いたりするからである。
このように、中国人の消費者心理を理解して商売を行っているスターバックスをお手本に、日系企業もぜひ「心理学」で中国ビジネスを成功に導いて欲しいものだ。 |